「えっと…あなたの血を…もらってもいいですか?」

「え?血?」

「はい…ここは封印の中です。封印にも結界がありまして…その…脆くなった結界が血を欲して…その人の命を奪おうと…して…でも…そこまでする必要は…なくて…うわあああああん!!ご、ごめんなさぁぁぁぁい!」


 

女の子は弁解している途中で泣き出してしまった。

わたしはそんな女の子を抱き寄せて、よしよしと頭を撫でた。



「大丈夫大丈夫、怒ってないから。ねえ、ひとつ聞いてもいい?」



わたしの問いかけにこくんと頷く女の子。

彼女の白いふわふわの髪が、わたしの頬をくすぐる。



「あなたは、本物の赤ちゃんウサギの魂なの?」



ふるふると頭を横に振られた。



「じゃあ、幻?」



今度はこくんと頷てくれた。



「じゃあ、名前をつけさせてもらってもいい?」

「名前?ですか?」

「そう。名前。わたしは全てを奪ってしまった。だから、その罪滅ぼしとして名前をつけてあげたいなーって思って……こんなの自己満足なだけだけれど」

「……お願いします」

「うん。そうだな……白いから雪見ちゃん!」

「ユキミ?」

「うん、そう。まあ……雪みたいに白いっていう意味だよ」

「ユキミ……ありがとうございます!」

「どういたしまして」



アイスの雪見だいふくからとったなんてとても言えないけれど、でも、ところどころ歯の抜けている口をニカッと開け子供っぽく笑われたら、自然とわたしの口元も緩んだ。



お互いにえへへ……と笑い合っていると、ユキミちゃんの身体から光が漏れ始めた。



「ど、どうしたの?」

「試練突破、ということです」

「試練突破?」

「はい。これからあなたは封印の中枢部に行くことができます」

「みんなもいるかな?」

「それはわかりません。他のみなさんも試練を受けているはずです」




みんなもトラウマと対峙しているんだ……ということは。



「みんなの血も欲しいの?」

「あればあるほど強力になりますから」

「無事だといいんだけど……でも、きっと死んだりしてないよね」

「そう願いましょう。では…もう時間切れです…さよう…な…ら……」

「ばいばい!ユキミちゃん!……ありがとう!」



足元から徐々に消えていったユキミちゃん。

最後、もう一度ニカッと笑って光となり、天に昇って行った。



「さてと……」



わたしは後ろを振り返った。

わたしの首から垂れていたはずの血は跡形もなく消えていた。近くに置いた短剣もいつの間にか無くなっている。

そして、わたしの首の傷も治っていた。




……すべては幻影、だったんだな。



でも実体はあったし、温かさも感じられた。



それだけで、もう十分だ。


────そして、全てが終わったんだ。





突如として現れたあのドアを目の前にして、そう思った。