「こんなのおかしいよ! 絶対絶対不公平だ!」

「天内君」

「門川君! たまきさんを助けて!」

「天内君、見てごらん。彼女の姿を」

「だから、見なくても分かってるよ! ほら、今にも崩壊・・・!」


崩・・・

・・・・・・

「たまき、さん?」


たまきさんは・・・笑っていた。

愛する人を見下ろしながら、幸せそうに。

まるで、昼寝している夫を見守っているかのように。

サラサラと我が身を崩しながら、本当に綺麗に微笑んでいた。


「彼女はもう、罪も償いも、悲しみも苦しみも越えてしまった」


悲しみ。苦しみ。全て。

そうだ。それはもう彼女にとって、恩讐の彼方。

なにも無い。

全て抜け落ち、過ぎ去り、あるのはただ・・・


愛。

愛だけ。


もう他には、なにもいらない。

愛だけに満ちた彼女の姿は、美しかった。

もう、体は半分も残っていない。

砂の城が波に崩れるように、その形を失っていても。

それでも、このうえなく、彼女は美しかった。


あぁ・・・人はこんなにも美しくなれる。


彼女は、あたし達と同じだ。

絶望を超えて未来を信じ、ついに望んだものを手に入れた。

茨の道の果ての果て。

千年の道の果てに。


だからあたしは、人々は、

どんな苦難の果てでも、癒し救われると信じることができる。


ここに、それを成したあなたが存在しているのだから・・・。