「……え、あ、ちょっ…!」
「待ってるからね!」

さっさと立ち上がった彼は私に背を向け、ひらひらと右手を振って去っていく。その場に残された私は、遠ざかって行く彼の背中をただ呆然と眺めることしか出来なかった。


* * *

学食では先程と変わらぬ場所で友達の七海が待っていた。

「ちょっと、桐子アンタどこ行ってたの。飲み物買いに行くだけでこんなに時間かからないよね」
「ごめん!ほんとごめん!ちょっと生徒会長に捕まっちゃって…あ、お詫びにちゃんと七海の分の飲み物も買ってきたよ!コーヒーで良かったよね?」
「…生徒会長って、浅倉タクト?」
「え、うん。そう。なんか生徒会に入らないかって。どうやら学内1位を奪った私に嫌がらせをしたいみたいよ。」

遅くなってしまった理由、生徒会長の浅倉タクトに生徒会へ勧誘されたことを包み隠さず七海に伝えると、何故か急に七海の表情が真剣になった。

「………七海?」

気になって顔を覗き込むと、七海は私に向き直り言った。

「桐子…やめた方がいい。あの生徒会は良い噂を聞かないし、それに書記なんてもう今年に入って2人も辞めた。イケメンが揃ってるとか何とかで立候補する女子は沢山いるけど、入ってものの30分で辞めたって話も聞いたことがある。」
「30分!?」
「詳しいことは何も分からないけど、正常な生徒会と言えないのは確か。アンタも被害に遭う前に断った方が…」



『キミには、少しだけ期待しているんだ』


友達である七海の言葉を他所に、頭に浮かんでくるのは、あの時一瞬だけ見せた彼の笑顔だった。