昨日の出来事を言い訳に、砦は昼までベッドの中にいた。

仁龔の背中や龍や充の話。
解せない部分もある頭を、シャワーでも浴びてスッキリさせようと、部屋のバスルームへ。

シャツを脱いだ…その時…
(えっ??)
その光景は、目覚ましには最適かもしれないが…言葉より先に悲鳴をあげた。

一番に飛んで来たのは仁龔。
インナー姿でバスルームにしやがみ込む砦にバスタオルをかける。
「砦…大丈夫か?」

少し遅れて充も駆けつけた。
「砦?どうしたんだ?」
いつになくオロオロしている。

砦は回らない口で一生懸命に告げる。
「後ろ…肩の所に…」

「背中?肩がどうしたんだい?」

「背中…」

仁龔が躊躇いも無く、砦からバスタオル剥ぎ取る。

「これは…」
二人は顔を見合わせる。

「蜻蛉だ…」
砦の肩付近に蜻蛉が現れていた。

「なんでそんなに落ち着いてるの?これ何?」

その後、シャワーは浴びてみたものの…洗っても蜻蛉は落ちなかった。

充は、書物を置いてある部屋から出て来なくなった。
砦は、背中が気になって何回も鏡で見てしまう。


ネオンがキラキラし始める頃、仁龔がドアをノックする。

「砦…仕事に行くからな」
スーツ姿の仁龔が立っている。

「あ…うん…」

「落ち着いたか?一人で大丈夫か?」
昼間の出来事を言っているのだろうか?
砦は大きく頷く。

「出歩いて迷子になるなよ?すぐには助けに行けないからな」

「方向音痴の事言ってるの?」

「じゃあ…良い子にしてろよ?」
笑いながらドアは閉められた。

(仕事って…ホストだよね?仁龔も…ボトル空けたりしてるのかな…指名されたり?)
仁龔に投げようと持ち上げた枕は間に合わず、そのまま砦に抱きかかえられた。

砦はテレビで見た〈実録!ホストクラブ〉と言う感じの番組を思い出していた。

そして…もう一度、背中をガラスに映す。

相変わらず背中には蜻蛉が居た。