「今日は移動で疲れたよな…」
ホストクラブ(桃源郷)から充の家へと歩きながら仁龔は砦の頭を撫でる。

「うん…疲れた…道には迷うし…知り合いはホストになってるし…それに…」

砦は充の話を思い出し、立ち止まる。

「それに…いきなり街を守るハメになった…って?」
仁龔が笑う。

「…うん…それに、大ママやママの役割…初めて聞いた」

今、虎目石は砦と母親の鶫(ツグミ)が持つ物しか力を発揮しない。

「今の俺では暴走してしまう…同じ様に愛情を貰って育っても血筋には敵わない事もあるんだ…」
こんな時、昔から仁龔は寂しそうな顔をする。

「人が見逃す様な小さな災いを解決…アタシ、何が出来るか分からないけど…」
砦は仁龔のジャケットの裾を引っ張る。

「小さな事と言え…マダムや鶫の仕事は、この街には不可欠だ」
小さい頃、砦が泣きそうになると仁龔はいつも不器用に抱きしめてくれた。
今、同じ様に抱き締めてくれた仁龔は、やはり大人の男性になっていた。 仁龔の使う香油の香りが心地良いのは昔からだ…。

「そうかなぁ…」

「この国には沢山の神様や精霊が居る。一緒に生活をしているんだから…」
充が口癖を仁龔が口にする。

「今、お前の後ろにも…その足で踏んでいるかもしれない…でしょ?」
続きを砦が呟き、仁龔の背中に腕を回す…。

「困っている神様や精霊を手助け出来る仕事だぞ」

「うん…」

「俺の背中にも神様が居るんだからな?強く押えない様に…」

「わっ…ゴメン!」
思わず砦は仁龔から離れる。

「ま…この龍様は寛大だけどな」
仁龔は意地悪く笑う。