背龍綺譚(せりゅうきたん)改

「白紙は…50冊近く…」

雨戸から西陽が差し込む刻まで、二人は書庫にいた。

「アタシが返却に来たのまで…」

「わ…もう、こんな時間…砦、そろそろ帰りなよ…」

「本当だ…暗くなりかけてる。周ちゃん、書物借りるね…」
充に頼まれた書物と共に白紙になった物も包む。

帰り際、書庫入口の燕の巣に目をやる。四羽の燕が並び、砦を下ろしている。

「送れなくてごめんね…何見てるの?」
顔を出した周が聞く。

「あ…うん…燕の子…雛は三羽?」

「三羽?昨日は二羽だったのに?」

「でも、三羽だよ?遅れて孵化したのかな?」
鳥居の下まで周に見送られながら歩く。

「とにかく、気をつけて帰るんだよ?」


「でね…コレが白紙になった書物なの」
帰宅した砦は、仁龔の部屋に直行し、今日の出来事を話す。

「確かに…白紙だな…」

「明日も神社に行こうと思って…」

砦の他意のない言葉に、湯冷ましを口にした仁龔が咽せる。

「大丈夫?苦しいの?」

「いや…周…九尾神社にか?」

「うん…気になる事があって…」
ベッドの上で上半身を起こし座る仁龔に、馬乗りになった砦が答える。

「…何が気になるんだ?」
額に手を当てる砦を拒まずに仁龔が返す。

「蜻蛉が燕に捕食されたの…あ…まだ熱あるね」

着ているシャツの襟元から肩口を覗くと、力を抜いて砦にしな垂れる。
「熱上がりそうだ…次に戻る時は燕になってるのか?」

「書庫の軒先にある燕の巣…燕が増えてるの…」

「燕か…」

「そう、仁龔は寝ててね」
そう言い残すと部屋を出て行く。

「周…」
一人になった仁龔は、九尾神社の巫女の名前を呟く。