「それで…帰ってきたのかい?」
充に報告をする。

「特に感じる物はなくて…砦の石も。場所は間違ない…龍も帰っていないから」
仁龔の背龍は、まだ帰って来ていない。

砦は、西の街で充と同じく稀縁屋を営む鶫にメールで報告をしながら、この二日間の出来事を思い出していた。

充や鶫の生業が生まれ育った場所と密接だった事や、虎目石の力。
背中に現れた蜻蛉を思い出し少しだけ沈
んでいた。

それを知ってか知らずか、鶫からの返信は届かなかった。


翌日は桃源郷の定休日。
「砦…買い物、付き合わないか?」
珍しくスーツではない仁龔が顔を出す。

「行きたい!何買うの?」

道に迷ったり、初仕事をする事になったりと、ちゃんと散策出来ていなかった街
をキョロキョロしながら、買物メモを見ながら歩く仁龔に着いて歩く。

「後は…食材と雑貨か…砦のお菓子も買っていいってさ…」

「えっ?ホント?」
不覚にも嬉しかった。
こうやって二人で、お使いに出てた事を思い出した。

この界隈にスーパーはなく、個性的な問屋が並ぶ。
「袋茸とランブータンの缶詰…後…何?」
店先で珍しい食材を眺めていた砦に仁龔の声が届く。

「貝柱、ザーサイ塩漬けと山椒の実…」

仁龔が異国の言葉で店の人に話し掛け、充が指定した品を詰めてもらう。

(一体…どこの言葉なんだろう…)
充ですら余り話す所を見ない言葉を仁龔が操る。

「待たせたか?次はお菓子買いに行こうな」
露店で飴細工を見ている砦に声を掛ける。

「輸入菓子を取り扱う問屋に…」

「あ、うん」
目で、まだ飴細工を追う砦に気付くと、仁龔が飴細工の職人に、何やら話し掛ける。
職人は頷くと何かを作り始めた。

「ねぇ…今、何て言ったの?」

「ん?何だと思う?」

砦は、横に並び優しい目で飴細工を見ている仁龔を見つめる」

「これ…蜻蛉?」
出来上がった飴細工は背中と同じ蜻蛉だった。

「かわいい!目が青で、体が赤い」

「食べないのか?あんな欲しがってたのに…」

「欲しがって見えたの?可愛くて食べれないよ!」

「鋏だけで作り上げるんだから凄いよな…」
仁龔も目を細める。


その時…
砦は、小さな影と羽音を頭上に感じた気がした…
見上げると回遊する何かが見えた。

(鳥?羽音??)

「仁龔!お願い…アタシの背中見て!」
突然声に出す。
目線は頭上のモノを捉えたまま。
見失う訳にはいかない。

「え…?ここで??」
そう言いながらも仁龔は首元から背中を覗く。

「いない…」

「やっぱり…アタシ追いかけるから…」
道に詳しくないが、砦は自分でもビックリする位に追いかけて走った。

どの位走ったのか?
(ここって…)
沢山の路地を横切って来たので気が付かなかったが…。
肩を落とし息を切らしながら見る地面には陶器が埋まっていた。

「砦…」
少しだけ遅れて仁龔も到着した。

「ここ…骨董通りの古井戸だよね?」
息を切らした砦が深い息を吐く。

「ああ…」

二人の頭上、この場所で数回の回遊して
モノは消えた。

「今の…蜻蛉か?」

「私もそう思う…」
少し呼吸を整える。