満月と怪盗と宝石と


この日は忘れられない日となった。


父さんが事故にあって亡くなったから。


しかもひき逃げで犯人は今も見つかっていない。


当時小六だった俺は初めはそれを信じる事ができなかった。


だって父さんは朝、いつものように仕事へ行くために玄関のドアを開けたんだから。


「行ってきます」と笑顔で。


警察から聞かされた時、真っ先に否定した。


そんな事は無い、


父さんは「ただいま」と言って帰って来るはずだ。


だが、呼ばれ病院のある所へ連れて行かれた時、その思いは一気に崩れた。


父さんはそこに眠っていたから。


俺は母さんに引かれ遺体となった父さんに歩み寄った。


その顔は痛みに歪んではなく穏やかで、


生きていた時、俺を撫でてくれた手は大きく、暖かかったのに……


触れた時、その手は冷たかった。


「う…あああああっ!!!」


母さんが遺体を抱きしめ、大声で叫びながら泣いた。


だけど、俺は涙一つ流すことも無く、その場に立ち尽くしていた。