「……蒼井です」

「アオイくん? それって名前? 苗字?」

「苗字です」

「そっかー」



アオイくん。……アオイくんかあー。

うん、なんだか彼は、『アオイくん』って感じ。



「あ、ちなみにあたしの名前は──」

「……『2年5組 春日 由宇』」

「へ?」



先回りで自分の名前を言われ、目をぱちぱちさせる。

そこで初めて、アオイくんが口端を上げて笑った。



「紙ヒコーキに、書いてたじゃないすか」

「あ……ああ~、そういえば」



そうでした。ばっちりクラスとフルネーム記入していたんでした。

若干出鼻をくじかれたような、そんな気分になっているあたしの背後で、アオイくんがすっと立ち上がる。



「先輩は、まだ帰らなくていいんですか?」

「あ……うん、そろそろ帰ろうかな」

「そうですか」



持っていた紙ヒコーキをかばんにしまってから、それを肩に掛け直し、地面に足をおろした。

袴姿でしゃんと立つアオイくんを、じっと見上げる。



「……なんすか」

「あの。……また来てもいい?」



予想外だったのだろう。あたしの言葉に、一瞬彼が目をまるくした。

だけどもすぐにその顔は、元通り感情の見えないものへと変わる。



「……別に、いいですけど」



──これが、あたしとアオイくんの、セカンドコンタクトだった。