「えっと、君は弓道部員なの?」

「はい」



あたしの問いかけに、彼はこくりと頷く。



「じゃあ、他の部員は?」

「いるけど、来ません」



抑揚なく発せられた、思いがけないそのせりふ。

あたしはきょとんと目を瞬かせた。 
 


「え? なんで?」

「みんな、予備校やら家庭教師やら、勉強を優先させるから」

「ああ……」



彼の言葉に納得して、小さく声をもらす。

この進学校で、実際こういう話は珍しくない。

部活に籍は置いているものの、大会前やらはたまた時間に余裕があるとき以外は、放課後は各々勉学に励んでいるのだ。



「まあ、自分ひとりで広い弓道場使い放題だし。誰にも何も言われないのは楽といえば楽ですけど」

「へー……あ、そういえばあたし、君の名前聞いてなかったね」



そう言って暗に名前を訊ねると、彼はなぜか少しだけ、眉を寄せた。