「遅い」

玄関に差し掛かったところで、

羽鳥に声をかけられた。


「え?あ…攻め」


「はあ?」


「あ、いやいやこっちのこと

 って、約束してたっけ?」


「今からするところだ。

 お前これから何かあるか?」


「あ、いや、帰るところだけど。」


「ならちょっと付き合えよ。」


「え、えーと…」


ちらりと隣の彩夏を見ると、

今にも壊れそうなほどひきつった笑いを浮かべて


「あ、私のことは気にせずに!どうぞどうぞ!」


って、物か?あたしは。


「じゃ、行くか。」


「ああ。うん。

 ごめんね彩夏」


「いいよいいよ!いってら~!」


引きつった笑いを必死で押し殺して、

手を振り、あたしを送り出す彩夏は、

絶対なにか企んでいる。


っていうか、

この羽鳥の方がもっと謎なんだけど。

(「攻め」は置いといて…)


はるか頭上の彼の顔を見上げた。


別段変わることなく、むすっとした表情からは、

何も読み取ることはできない。


これ以上は首が疲れそうなので、

黙ってついて行くことにする。