日頃身分や出自にこだわらない将軍にしては、驚くほどきつい声音だ。
「将軍はそれほど丹が嫌いなのか?」
「好き嫌いという話ではございません。畏れ多くも神のおわす宮城に、魔祖の流れの輩がいるのはよろしくない」
遥か昔、まだ神々が天ではなく地上にいた頃、世界を創り上げた界祖神は、成年を迎えた三人の息子に課題を出した。
『成年を迎えた証に、自分に似せてこの世に物を創れ』という父に、目を持たぬ長男・穀祖神は米と麦と豆を、目を二つ持つ三男・人祖神は人間を創って応える。
だが目を一つしか持たない次男は、自分に似せて物を創ることができず、父から叱責され地上から海へと追放されてしまう。
兄と弟を恨んだ彼は、農耕を知った人間たちが作り上げた楽園のような国に、『老い』や『病』、『嫉妬』や『憎悪』、『武器』や『悪知恵』を送り込んで、滅ぼそうとした。
楽園がとうとう滅び去るかと思われたその時に、一人の青年が海へ赴き、槍で次男――魔祖の目を突き刺す。
その傷が元で魔祖は死に、魔祖が送り込んだ魔から逃れていた人々は、青年を国の皇帝にした。
この青年こそが皇祖神であり、暁の全ての皇帝の父である。
魔祖は西に広がる砂の大地に逃れそこで絶命したが、その時に彼の目から流れた血が砂に染み込んで生まれたとされるのが、丹の人間であった。
宮城に仕えるものなら誰もが知る、創界神話だ。
皇帝は神の子、丹の人間は魔祖の血から生まれた不完全な生き物。
宮城には丹の官吏が数名いるが、今年は青礼のほかにもう一人、しかも医官として丹人が入ったと聞いている。
一度に二人も丹人が宮城に入るなど、異例のことだとも。
崔延は将軍から目をそらした。
橙色に見えたあの瞳を、琥珀に似て美しいと思うのは自分だけなのだろうか。



