「あの、杏奈さんは」


斗真君は何かを言いかけて言うのを止めた。

「やっぱりなんでもないっす」


「気になるじゃない。教えてよ」


「いや!個人情報聞くみたいで・・・やっぱりやめときます!」


「個人情報くらい刑事さんなら分かるんじゃないの?笑」


「・・・まだ俺下っ端なんで。杏奈さんの事は生年月日とか本名とか。そういうのしか知りません」


「そうなんだ」


「だから、えっと。あの・・・加害者の男性には慰謝料もらったんですよね?」



その言葉に少しだけギクッとする。

実は10万円の他にあの人から多大の慰謝料をもらう手立てになっているからだ。


およそ3000万円ほど。



ちょうどその時店員さんがアイスコーヒーとオレンジジュースを運んできた。



「お待たせいたしました」


店員さんは迷わず私の前にアイスコーヒーを、斗真君の前にオレンジジュースを置いた。



それを見て私は少しだけ吹き出した。


やっぱり他の人から見ても簡単に頼んだものは分かっちゃうんだなって。





「な、なんっすか!」


「ううん別に笑」


「笑ってるじゃないっすか!」


「だって・・・ふふっ」


「うん、やっぱり杏奈さんは笑ってた方がもっと綺麗です」



『綺麗』

言われ慣れているはずなのに、
なぜか斗真君に言われると
少しだけ恥ずかしくなった。


照れ隠しの為に私はアイスコーヒーのストローをくわえて一口飲んだ。