「先輩、何してるんっすか」
「瀬川・・・」
そこには斗真君がいた。
今まで見た事のない顔で私たちを見つめている。
いや、吉崎さんを。
「これがデートですか?あり得ないでしょ」
斗真君はゆっくりと私たちに近づいてくる。
けどすぐには来ない。
塩酸を持っている吉崎さんを警戒しているのだろう。
「そうだ。二人に言っておきますけど、さっきの子は彼女じゃない。通行人の人に道を聞かれて答えただけです。先輩はそれを知っていたはずですよね」
「・・・」
「早くその人から離れてください!」
「うるさい!」
「先輩っ!」
「お前に何が分かる。お前に大事な人を失った悲しみが分かるのか!?」
「分からない!けど分かりたい。でも分かりたくない!・・・大事な人を失った悲しみをまた違う人に繰り返してる先輩は最低だ!」
斗真君はいったいどこまで知ったのだろうか。
もしかしたらずっと私たちの話を聞いていた?
・・・だとしたら吉崎さんの事だけじゃなくて、私の事も知ったはず。
私を助ける価値なんてないんだよ。斗真君。
私も大事な人を失った悲しみを他の誰かにしてしまっているのだから。

