春香に手を伸ばす。

 俺は思いとどまった。


 
「...俺、春香にしてやれること、何も
 ないのかな?」


 自分の手を見つめて、春香を見る。
 傍に、春香の隣に座って

 一緒の風景を眺めた。


 
 暗闇に春香と、見えない俺。
 
“俺はここにいる”

 そういいたくて、手をそっと握る。
 だけどやっぱりすり抜けてしまう手。


 
 満月の月。
 俺が死んだ日と同じ月が俺達を照らす。



 
「...春香っ...」


「...え?」


 
 こっちが、え?と思った。
 今、春香が俺の声で反応した??



「よかった。ここにいた...」



 なんだ。杉山かよ。
 驚かせやがって。


 汗だくで息を切らしている杉山がドア
 から俺達のほうへ来る。

 
 あ、間違えた。
 杉山は春香の前に来たんだ。

 
 俺はそんな二人を静かに見つめて。



「髪、大丈夫?俺拭くよ?」


「...ううん。いいよありがとう」


 そう言って床から立つ春香。