その丸い形をしたものを、手の平に乗せて見てみる。
二枚の白地のフェルトの中には綿が入っていて、そのフェルトを縫い合わせている縫い目は決して上手いとは言えない。裏返してみるとそこには茶色の糸でクマと思われる動物が刺しゅうされている。
いや、たぶんこれはクマだと思うんだけど。
違うのかな。
うん、きっとクマだ、これは。
相変わらずな美月の美的センス。
これは刺繍が下手だからとか、そういう以前の問題だろう。
そしてそのクマのうえには“いつも”したには“ありがとう”と、つぎはぎがよく分かる文字が刺しゅうされていた。
見る人が見たら、小学生が作ったようなものだろう。
でも、下手でも必死に頑張って、真剣にこれを縫う美月が簡単に想像できて、“かわいいなぁ”と、自分の妹のことなのに思わず口元がゆるんでしまう。
「かわいいよなぁ、美月ちゃん。 この、下手なりの必死さと、いかにも精一杯頑張りました！って感じの不格好さがなんとも言えないよなぁ。 見てみろよその周り、巻きがかりじゃなくて、ちゃんとブランケットステッチになってんだよ」
そこでやっと視線をこちらによこした誠人君。
こっちを見てほしかったはずなのに、その視線の先は私が持っているもので私じゃない。
