「いつか…」


そんな儚い約束を胸に抱いて、信じて生きてきた。


そんなあたし、黒澤 紫苑(クロサワ シオン)は今年で16歳になる。


2歳年上の楓にぃには、もう18歳になるんだね。


今、どこで何をしてどうやって生きているのか、あたしは全く知らない。


名前さえも知らない。


未だに幼かった頃と同じ、大和 楓(ヤマト カエデ)という名前なのか。


はたまたもうあたしみたいに違う苗字を名乗っているのか。


そう考えていくと、キリがない。


毎日書くと言った手紙も、離れて5年ほどで途切れた。


電話もよくしてたのはあたしが10歳の頃までで、その後引っ越したらしい楓にぃにから連絡が一切なくなった。


きっともう、あたしのことなんて忘れてしまってる。


あたしを迎えになんて、一生来ない。


二人で一緒に暮らせる日なんて、一生来ない。


目をつむれば、楓にぃにの優しい声を、輝く笑顔を思い出せる。


あたしはこんなにも楓にぃにのことを覚えているのに…。


ずっとそばにいてくれるはずだった楓にぃには、今誰のそばで笑ってるの?


「ママ…あたし楓にぃにに泣かされてるよ…。ママが言ったのにね…。」


ママの遺言。楓にぃにに「紫苑を泣かせるな」って言ったのに。


自分の部屋のベッドに横たわる。


電気を消して、窓から入り込む月明かりだけがあたしを照らす。


楓にぃにのことを考えると、自然と涙が出る。


あたしは楓にぃにに会いたくて、会いたくて、仕方ないのに。


そう思ってるのは、あたしだけなんだ――――――