コスモスの花畑に着くと、一気に場が緊迫したものになる。
全員がゴクリと息を飲む。
この箱庭の出口は、俺とナイトと花村の力でしか出現させられない。
なので、狼人間達は入ることが出来ても出ることは出来ないのだ。
「行くぞ。」
目の前に真っ暗闇の穴が出来る。
目を瞑る。
大きく息を吸って、膝を曲げる。
「早くしろ。凛。」
次の瞬間、ナイトに思いっきり背中を押された。
「ゔわぁぁぁ!!!」
心の準備をしていなかったので、口から心臓が飛び出るかと思った。
腹ばいになって、両手を広げ、感覚を保つ。
「なにやってんだ?お前。」
隣でふわふわ浮いているナイトに驚愕する。
ちなみにその隣で花村もふわふわ浮いている。
「な、な、なんで!?」
やっと掴んだ安全な飛び方がこの“モモンガ飛び”がすごく無駄で恥ずかしいものに感じた。
そんなことを色々考えていると、目の前に光が見えてきた。
「穴から出たらすぐ相手の人数、状態を確認。いいな!?」
「了解です。」
「は…はいっ!」
花村が、ベストの裏ポケットからなにかを取り出している。
よく見ると、それはバタフライナイフだった。
…本気だ。
「来るぞ!構えろ!」
そのナイトの叫び声と共に、俺達は穴から飛び出た。
「うおっ…!」
ゴロゴロ、と、転ぶようにして着地する。
目の前には、青色のローブを着た人間が4人。
地面の穴を見つめて、俯いている。
ナイトはコートを翻し着地すると、顔つきをガラリと変えた。
人が恐れおののく怪物の吸血鬼の顔だ。
真っ赤な舌で舌なめずりをして、こう言い放った。
「いけ。」
花村の背中から翼が生える。
コウモリの翼だ。
花村は笑顔で、ナイフを振りかぶると、すぐにローブの人間達の背後に回った。
ローブの人間達は、やっと気付いたのか、身をねじらせ、なんとか花村の攻撃をかわした。
その光景を遠くで見ていたナイトに慌てて問う。
「あんな半分コウモリみたいなこと出来るんですか!?」
「無駄口たたくな!ローブの野郎どもに攻撃されねぇようにしろ!」
ナイトが高く飛躍し、夢の援護にまわる。
なにが“見に行く”やねん。
そう思いながら、俺はなにか二人の援護を出来ないか、必死に考えた。
ローブの人間達は逃げ惑い、こちらへ走って来た。
「夢!」
花村がこちらに羽ばたいて来てローブの人間の目の前に回る。
ナイフを振りかぶり、ローブを切りつけた。
「ダメだ!夢っ!」
「…はっ!」
花村が息を飲む。
ローブの人間のローブが風で飛んでいく。
ローブが剥がされた人間には、尻尾と耳が生えており、グルルル…と、喉を鳴らしている。
髪の色は黒髪で、つり目で………
あれ…?
「え……」
体が動かない。
時が止まったように、周りがやけに静かだ。
衝撃的な事実に思考回路が停止する。
「り……凛……」
目の前の“狼人間”は、顔を上げ、俺の顔を見て固まっている。
「な、なんで……」
その場にひざまずく。
周りなど見えない。
なんで?
なんで?
なんで?
「修ちゃん………」
俺は狼人間に成り果てた弟の名を小さく呟いた。