これで何かを作れって言ってるんだった
ら美海は鬼だ。
なにも作れない。お湯しか作れない。
「……ああ、食材ね。忘れてた」
「忘れてた……って」
「だっていつも、ご飯はそこにあるもの
で済ませてるし」
そう言った美海を、思わず見つめると、
美海はハッとしたように口をつぐんだ。
「美海……」
「……別に、良いでしょ。だって本当に
食欲が無いんだもの。それに今日は……
徹が作ったものなら、食べられるかも、
って思ったのよ」
「……」
「自分から何かを食べたい、なんて思う
の、すごい久しぶりなんだからね」
そう言って笑う美海を、俺はなんとも言
えないような気持ちで見ていた。
美海はまた、細くなった。
痩せた、というよりは衰弱してる、とい
う方がきっと正しい。
食欲がない、なんて、ただの夏バテかな
とも思ったけど。


