【完】キセキ~君に恋した時間~





───岩手は、東京よりも雪が降ってい
た。



目を奪われるほどの白銀の世界。



自分の足跡でそれを汚してしまうのを、
躊躇うほどに。



「懐かしいな……」



もう何年も来ていなかったから、すごく
懐かしい。それに、あの頃と変わらない
。……何も、変わっていないんだ。



俺が変わりつつあったのは、東京での話
で。



こうして岩手に戻ってきてしまえば、あ
っという間にあの頃の弱い自分に引き戻
される。



悲しい記憶だけを強く、残してきてしま
ったから……。



雪で視界が霞むなか、柔らかく微笑んだ
、母さんの幻影を見た気がした。



「母さん……」



ポツリ、と呟いた声は、雪に埋もれてい
く。



あの日、俺は故郷が嫌いになった。