「いらっしゃいませ。1名様ですか?」
「あっ…はい。えっとでも…」
お客じゃなく…ただ傘を返しに来ただけで…。
きょろきょろと辺りを見回す私の様子に、不思議な表情を浮かべる店員さん。
叶斗くん、やっぱりいないのかな?
すると…
「夕芽さん…?」
声の方向に視線を向けると、そこにはちょうど厨房から出てきた叶斗くんの姿が。
よかった…いた!
思わず満面の笑みを浮かべる。
…と、私と叶斗くんの様子を見ていた店員さんは他の客の接客へと向かった。
「また来てくれたんだ。バイトの帰りだよね?お疲れ様」
「うん、ありがとう…えっと、でも今日はただ傘を返しに寄っただけで…」
すると、叶斗くんはきょとんとした表情を浮かべる。
「傘を?それでわざわざ来てくれたの?」
「はい…」
なぜか敬語で返事をする私。
「…でも、まだ外は雨降ってるけど」
「うん…だから来たの。叶斗くん、帰りも濡れちゃったら大変だと思って…返さないとって思って…」
「夕芽さん…夕芽さんは優しいね。ありがとう」
そう言って柔らかい笑みを浮かべる叶斗くん。その笑顔に、胸がキュンとなった。



