郁の背中にそっと手を添えた私を見て彼は抱き締める力を強めた。



―――――………



しばらくして体を離した。


「千花・・・・」


突然郁に名前呼びされてドキッと胸が音をたてて鳴った。

いつもは『篠塚』だったから『千花』って呼ばれたのは初めてで顔が赤くなる。


そう思った瞬間、郁の唇が私の唇に触れた。


「…っ‥‥」


フワッとそこだけ温かくなるようなファーストキス。


お互い真っ赤になりながら唇を離す。


「帰ろっか…」


そう言って彼は右手を差し出した。


「ん」


その意味を察した私は嬉しくなった。


私は郁の差し出された右手に自分の左手を重ねる。


ギュッて握ると彼もまたギュッて握り返してくれる。

そんな些細なことがすごく幸せに思えた。