深山咲に生まれただけで、向けられる敵意と。
この外見で生まれた為に、異性から向けられる好意。
梨乃にとっては、そのどちらともが、自信を喪失する原因にしかならなかったのだから。
でも。
この男、蓮實からは、そのどちらも感じられなかった。
いや、どちらも…と、言うのとは、少し違うのかもしれない。
好意は、あるが。
異性としての、ソレではなく。
どちらかと言うと、梨乃がもっとも憧れて、けれど期待する度に裏切られた…
『家族愛』
ソレに、近いようなモノが、感じられた。
たった今、はじめて逢った、ひとなのに。
そんな事を梨乃が考えていると、蓮實は何故か、とても嬉しそうな顔になり。
「はい、はすみ、です。梨乃さま」
と、言って、腰をかがめ、梨乃と視線を合わせた。
そして続けて。
「梨乃さま、今日の空は、もうご覧になられましたか?」
と、言って、秋の空を指差した。


