「ああ、自慢の弟だ!とてもオヤジとオレと、同じ血が流れているとは思えんな。アレはジジイに良く似ている」


「園生さまにはイヤミも通じやしない」


コートを左腕にかけたまま、栄ゑは園生の後をついて回った。


「栄ゑの育て方が良かったんじゃないのか?オレの母親はオマエのようなものだからな」


ふいに立ち止まって、園生は栄ゑの顔を見た。


「口やかましいのも我慢してやる」


「園生さま…」


思わず文句が止まった栄ゑに、園生はニヤッと笑みを見せると。


「だからオレの邪魔はするな。オヤジはどこだ?サロンか?どうせまたオンナを連れ込んでるんだろ?邪魔する訳じゃない。オレを通せ」


と、言って、栄ゑをグイグイと押しながら、調理場への扉を開けた。


「園生さま!」


「オマエがオレの後をついて回るのはオヤジのオンナ絡みの時だけだ。オレは武生と違って、軽蔑したりはしないさ。オレ自身もしている事だ」


「園生さま、ですが…凉さまは…」


「作品が出来ずに機嫌が悪い、か?」


「……はい。今日も朝から葡萄酒を…昼食も夕食も召し上がらないと」


「それだけ飲んでいれば食欲をなくす。筆が震えるのも当たり前の事」