車の中で、梨乃は眠ってしまっていた。


実の母親と姉に逢うのに、私といるよりも緊張するとは…


もう梨乃にとってあの場所は、居心地の良い我が家ではなくなってしまったようだ。


まあ、あの屋敷に暮らしていた頃からも。

公爵がいない時の彼女への仕打ちは、それなりに酷いものではあったのだけれど。


車が揺れると足が痛むのか、梨乃は眠りながらも眉をしかめている。


蓮實は優しく梨乃を抱き寄せると、揺れが激しくおこらないように、『気をつけろ』…と、運転手を叱責した。


愛しい愛しい、可愛い梨乃。


蓮實は眠っている梨乃の髪に優しくキスをすると、窓の外の風景に目を向けた。


今朝から…風が強い。


せっかく咲きかけた沈丁花の蕾が、落ちてしまうかもしれない……