「お兄さま、こちらにいらしたんですか?」

ふいに声をかけられて、蓮實が振り返ると…

「お待ちしておりました。梨乃は…ここにいたくはございません」

広い廊下の壁に寄りかかるようにして、梨乃が立っていた。

今日の為にあつらえた、繻子の深いビリジアンカラーのドレスが汚れてしまっている。



「梨乃!誰かに襲われたのか!?」



梨乃の腕を引き寄せて、顔をひきつらせる蓮實。
近くにいた招待客達が、ひそひそと声をひそめ、2人を見て耳打ちを始めた。


「お兄さま…」


梨乃が居心地の悪そうな顔をして蓮實を見ると、蓮實も頷いて。


「…そうだな。森へ帰ろう…」


と、言って、梨乃の腰に手を回した。


その、様子を。

遠くから、志乃と沙織が見つめていた。



『はやく行っておしまいなさい』



背中に冷たい言葉を浴びたような気がして、梨乃は辛そうに瞳を伏せた……