「足、拭いてあげるから。ちょっとそこで待ってて」


 僕は部屋に入るとスリッパにはきかえて、クドリャフカを玄関に待たせタオルを取りに行った。


「お待たせ」


 クドリャフカは大人しくお座りをしていた。


「はい、足出してー」


 クドリャフカの小さな足を取り、汚れを拭き取る。

 柔らかくて小さな足。

 じんわりと涙が滲んで、僕は俯いたまま動けなくなってしまった。


 くぅん……


 ポタリポタリと涙を零す僕を、クドリャフカは心配そうに見つめてくる。


「ごめんね、クドリャフカ……」


 クドリャフカを助ける勇気もないくせに、謝る僕は卑怯だ。

 クドリャフカの足とタオルを握り締めながら、うなだれて目をきつく閉ざす。

 それでも涙はとまらない。

 時代とか、政治とか、科学だとか、いろいろな物が束になって僕らを押し潰そうとしていた。

 巨大な流れに飲み込まれて、溺れ死んでしまいそうだ。

 いっそ、このまま死んでしまいたい。

 それなのに僕は、流れに身を任せて、溺れないように必死でもがいていた。

 ただ流されるままに、時が過ぎるのを待つ。

 クドリャフカが流されて溺れていくのを知りながら、僕は自分のことで精一杯だった。

 僕は、クドリャフカを見殺しにする。

 僕も一緒に宇宙へ行けたら、どんなに気が楽だろう。