「僕があげたの、覚えてる?」
僕が立ち止まったのにクドリャフカも足を止め、じっと僕を見上げてきた。
「食べたらわかるかな。クドリャフカ、買ってくるからここで待っててよ」
クドリャフカの頭をわしわしと撫でて、街灯の支柱にリードを巻き付ける。
リードを巻く手に、力が入らない。
僕はリードを緩く巻いて、もう一度クドリャフカを撫でてから店の中に入って行った。
僕は、宇宙開発局からクドリャフカを連れ出した。
別に誘拐したわけじゃなく、ちゃんと許可を貰ってだ。
クドリャフカがスプートニク2号に乗ったら、もう会えなくなる。
それはみんな理解しているし、それをみんな悲しんでいる。
だから、許可は案外あっさり出された。
クドリャフカが強く引っ張れば、リードはほどけてしまうだろう。
僕はどこかでそれを期待していた。
クドリャフカを逃がすことは出来ない。
アルビナを差し出すことは出来ないから。
けれど、不慮の事故なら仕方がないだろう。
そしたら僕はアルビナも逃がすのだろうか。
次はムーカ。
そして、全ての犬を逃がすことになる。
僕はそれをしようというのか?