「6、5、4」


 この打ち上げが成功すれば、クドリャフカは世界ではじめて宇宙へ飛び出し衛星の軌道に乗った生き物になる。

 人間よりも先に、クドリャフカはその栄光を手にする。

 そして、世界ではじめて宇宙で死んだ生き物になる。


「3、2、1」


 願わくば、彼女が最初で最後の死亡者になるように……





「0」





 エンジンが火を噴く。

 強烈な光に目を庇い、煙が塊となって広がっていく。

 轟音の中、ロケットは重力に逆らいゆっくりと上昇していった。

 上昇を始めたロケットを、もう誰も止められない。

もう、クドリャフカの死は避けられなかった。


「――――――!」


 僕の叫びは、ロケットの轟音に遮られて届かない。

 自分の耳さえ、僕が叫んだ言葉を受け取ってはくれなかった。