昼食会の終わりは近衛の義父が締めくくり、最後に驚くべき発表があった。



「……そして みなさまにお知らせがございます。

本日 『客船 久遠 クルーズクラブ』 の発足を発表いたします」



ホールはざわめき、宗のいるテーブルも、みなさん顔を見合わせている。 

お義父さまの発表の内容は、聞かされていなかったようだ。

披露宴に出席してくださった方々を中心に 『クーガクルーズ』 の株主を募り、株主となれば 『久遠クルーズクラブ』 の会員となるというものだった。

会員は 『クーガクルーズ』 が企画するクルーズに優先的に申し込めるだけでなく、15%オフの費用で参加できること、会員権は二等親に限り譲渡できるなど、ほかにも株主優待の特典が得られる素晴らしいものだった。



「おかげさまで、すでに多くの方の参加をいただいております」 



お義父さまの言葉にハッと気がつき宗を見ると、彼も私を見ていた。

岩倉の大叔父さまや丸田のおじさま、近衛の大叔母さまがおっしゃっていたのは、このことだったのだ。



「みなさま、ありがとうございました」



義父の声とともに会場は拍手に包まれ、「私も参加させてもらいます」 との声が方々からあがった。

すでに何人もの人がメインテーブルへと近づき 「申し込みを」 と勇んでいる。

久我の叔父さまは、申し込み者の対応に追われていた。



「親父たち、こんなことを考えていたんだな」



駆け寄ってきた宗の声は興奮気味だった。



「えぇ……どうして私たちに教えてくれなかったのかしら」


「うーん、どうしてだろう」 


「親心だよ」



いつの間にそばにきたのか、知弘さんが立っていた。



「君たちが披露宴をおこなったおかげで、客船の噂はずいぶん好転したが、それでも完全に払拭されたわけではない。

今後、ふたたびよくない噂に悩まされないために、二重三重に手を打ったんだよ」


「クルーズ倶楽部の発足は、そのための戦略ですか」


「あぁ、そうだね。株主を多く募ることで、もしもの場合は損害を低く抑えられる。

披露宴の招待者に限り、株主優待の値引き幅を大きくしたことで親近感を持たせる。

自尊心がくすぐられたうえに、客船の宣伝効果もある。

船の評価は、間違いなくプラスに転じるよ。 

君たち息子に声をかけなかったのは、それでも生じる可能性があるかもしれないリスクを、負わせたくなかったから……

僕も株主にと手を挙げたが、兄さんに反対された」



僕は君たちの叔父だが、近衛の娘婿でもあるからね、複雑な立場になったものだと苦笑いしている。



「近衛のお義父さんに心配をかけるなと言われたら、無理にとはいえなくてね……

親ってのはありがたいね。うん? そう思うだろう」 


「思います……」 と二人で同時に返事をしたが、宗も私も声が震えていた。




 
母港に戻った客船は、大勢の人々に迎えられた。

マスコミの取材も多く、客船の話題がニュースで流れた頃、私たちは双方の両親の前にいた。

あらためて感謝を述べ、これから二人で歩いていきますと素直な気持ちを伝えた。

私たちの言葉を聞いた両親は、この上もなく優しい顔をみせてくれた。

新婚旅行まで、あと10日となった夜のことだった。