「三宅さまが発起人の代表を務められると伺いまして、三宅さまお名のためにも良いお式にしなければと私も力が入りました。 

おかげで、今後につながるヒントをいただきました」 



かつて 『榊ホテル東京』 の挙式は、未婚の女性たちにとって憧れだった。

いまも根強い人気があるが、昨今の景気の低迷もあり、結婚式に多額の費用をかける人々は
減少している。 

入籍しても結婚式を行わないカップルも多くなり、式を挙げるにしても結婚式場ではなくレストランで手軽な式だったり、内輪のパーティーになる傾向があると語る西村さんの顔は残念そうだったが、梶原さんの結婚式はそれなりの格式を保ちながら価格を抑えることができた。

お客様へ新たな提案ができそうですと嬉しそうだった。



「二人の結婚が決まったら言ってくれ。最優先で会場を提供するよ。 

資金がないならないなりに、金に糸目をつけないというのなら、それこそバブルの頃の式に負けないような結婚式を企画してやる」


「やめてくれ。これを見ろ、新郎の衣装はまるで幼稚園のお遊戯会の王子様だ。 

こんなのはご免だね。

結婚式なんて恥ずかしさの極みだ、できるならやりたくない」


「おいおい、おまえはそれでいいだろうが、珠貴さんは違うだろう」


「女性の方は質素でも良いとおっしゃりながらも、お衣装などにこだわりをお持ちです。

よろしければ須藤さまのお考えをお伺いしたいのですが」



宗はいかにも彼らしい発言で、結婚式は嫌だといわんばかりに顔をしかめている。 

やはりそうなのかと頷いていたところ、急に質問を向けられて驚いた。

私が結婚式に望むかたちですか……と西村さんに聞き返すと 「はい」 と真面目な顔で返事があった。



「私は……これといった希望は持っておりません。

みなさんのように、婚礼衣装にも、まったくといっていいほど興味がありませんの。 

繊維業を営む家に生まれながら、どうしてでしょうね」


「それは、須藤さまが服の役割を良くご存知でいらっしゃるからではないでしょうか」


「服の役割ですか」


「お着物もそうですが、洋服にも場をわきまえなければならない決まりがございます。

例えば……結婚式でお父さまがお召しになるのは、昼ですとモーニング、夜はタキシードとなります。

いくら高級だからといって、ジャケットにスラックスでは、場にそぐわない装いになります」


「そうですね。母親はアフタヌーンドレス、夜はイブニングドレス、お着物なら黒の留袖でしょう。

それこそどれほど高級なものでも、お着物が小紋では話しになりませんから」


「おっしゃるとおりです。ご新婦様のお衣装は白という決まりがございます。

須藤さまは、白であれば簡素なお衣装でも良いと、お考えなのではありませんか」


「極端なことをいえば、ベールと手袋だけでも良いと思っています」


「おい近衛、珠貴さんはベールだけでいいって言ってるぞ、いっそのこと地味婚にするか」



狩野さんが宗の脇腹をつつきながら楽しそうにしているのに、宗は腕組みをし、うーん……とうなったままだ。

彼が何を考えているのか、私には見当もつかない。