絶滅危惧種『ヒト』

直樹は日々自家用車で通勤をしている。


自宅を出てから病院に着くまで、頭の中は例の新種ウイルスのことで一杯だった。


出来うることなら、小林孝明一人だけで……。そう思っていたのに、その願いも虚しく、昨日は二人目の犠牲者が出てしまった。


ただ……これが性行為による接触感染だけなら、おそらく被害は大きくはならないだろう。


小林孝明と一緒にいた南極観測隊員や、彼が帰国してから会った人たちにも何の異常もないことからもそう思える。


もちろんそれは、直樹と井上の希望的観測であって、今はその可能性に期待しているけど、人によって潜伏期間は違うだろうから、まだ安心は出来ない。


車が病院の関係者専用駐車場に着き、直樹はいつもの場所に車を停めて車から降りた。


何といっても大きな病院だけに、駐車場から自分の持ち場までが異常に遠い。

職員の駐車スペースだけでもかなりあるのだから仕方ないが、電車通勤にして駅から歩くことを考えれば幾分マシである。


それにしても……まだ時間が早いからそうでもないが、この広い駐車スペースがもうすぐ埋まるのだから、いったい何人のスタッフが働いているのだろう。

逆に言うと、この巨大な病院で働いているスタッフのうち、直樹が名前と顔を一致させることが出来る人物は、半数にも満たないだろう。


直樹の脚が止まった。


少し前に男が倒れているのだ。


慌てて男のもとに駆け寄り抱え起こす。


同時に、あまりの異臭に吐き気を催した。


――これは……。


直樹は男の顔を見て、驚いて目を見開く。

知らない者の多い大病院の中にあって、直樹はこの男を知っていた。


最初に小林孝明に携わった、外来の上杉医師だったのだ。