絶滅危惧種『ヒト』

《アナタ奥様は?》


綾乃は一番気になっていることを聞いてみた。

もちろんさり気無くを装ってである。


《ああ、もちろんいたさ。過去形だけどね》


ケビンはまたウインクをした。



《えっ、何で過去形なの?》


《いやぁ、それがあまりにも細菌やウイルスと仲良くし過ぎてしまったものだから、ワイフのヤツ、ヤキモチを妬いて出て行ってしまったんだよ》


《あら、そうなの?》


《そりゃあ、新種の病原菌やら何やらを毎日毎日研究していて、まったく家に帰らなかったからね》


《まぁ、そうだったのね》


《ああ、何と言っても俺の不幸は、同じ仕事をしていた日本人の男の妻が、そういう男を飽きもせずにずっと待ってたもんだから、

女性ってのは、ずっと放ったらかしにしていても、待っていてくれるものだって誤解していたことだね》


ケビンはまたウインクをする。


そう言われれば、夫の昇もほとんど家にいなかった。

でも、綾乃は夫の仕事を理解していたから、それを不満に思ったことは一度もない。


《ちょっと、それじゃあアナタが離婚したのは、私のせいってこと?》


《アハハ、もちろんそうさ。ぜひ、君にはその責任をとってもらいたいね》


《責任? 責任を取るって、どうやってとるの?》


《そりゃあもちろん。アメリカに来て、僕のワイフになってもらうのさ》


ケビンはサンドイッチを頬張ると、またウインクをする。


当時はいつも冗談ばかり言っていたから、綾乃はどうせ今だって本気じゃないんだろと思っているけど、妙にドキドキしている自分がいた。