絶滅危惧種『ヒト』

「あら、有り難う」


研究室に戻ると、綾乃が笑顔でお礼を言ってきた。

愛する息子を失くしたばかりのお母様に隠れて、さっきまでラブラブだったのが申し訳なくて、梓の胸が痛む。


「どうなってるの?」


聖人が綾乃に聞いた。


「うん。今は細菌に胃液をかけて経過を見ているところ」


「そっか」


「すぐに結果が出ないのがイライラしちゃうわね」


「どれくらいかかるんだろう?」


「さぁ?」


「結構時間がかかるんなら、ちょっと出て来て良い?」


「出て来てってどこに?」


「ただ待ってるだけじゃつまらないから、梓と二人でちょっと散策を」


「散策って……」


そこで綾乃は気がついた。


若い二人だ。二人きりの時間が欲しいのだろう。

もちろん今日の朝から、綾乃だって自分がお邪魔虫なのは分かっているのだ。


「いいわ。でもあまり遠くには行かないでね」


そう言いながら、綾乃は梓を見た。


「分かってるよ」


「あ、あのお母様」


「いいのよ梓ちゃん。ゆっくりしてらっしゃい」


申し訳なさそうな顔をした梓に、綾乃は優しく微笑んだ。


「じゃあ行こうぜ」


聖人が梓の手を繋いで部屋を出て行くのを、綾乃は微笑ましく見送った。


《ほう、こりゃ美味そうだね》


買い物袋の中を物色しながら、ケビンが微笑む。


《どれでもお好きな物をどうぞ》


《好きなモノをと言われたら……。一番好きなのは、目の前の美女なんだがね》


《えっ、ちょっとイヤだわ。からかわないでよ》


《おいおい、からかってなんていないよ。自分に正直に思っていることを言っただけさ》


サンドイッチを手に取りながら、ウインクをするケビン。

夫が亡くなってから10年。久しぶりに綾乃の胸がドキドキとときめいていた