絶滅危惧種『ヒト』

「母さん。しっかりしてくれ。辛いのは分かるけど、今は……」


そう言いながら、聖人の胸にも熱いものが込上げて、また涙が溢れる。


「とりあえず兄ちゃんの研究室に運ぼう。彼女と一緒のほうが、兄ちゃんだって嬉しいだろうし」


「そうね。私もそう思うわ」


綾乃はすすり泣きながら、必死で涙を拭った。


「ねぇ聖人……」


梓が聖人を見つめる。



「ん?」


「お兄様の彼女といえば、あの跡なんだけど」


「アト?」


「ほら、細菌が移動したアザみたいな跡よ」


「ああ」


「私たちも同じようにワクチンを打ったじゃない」


「うん」


「でも、私たちにはあんな跡はないわ」



「そういえば確かに……。梓は大丈夫なのか?」



「うん。昨日お風呂に入ったときは、何もなかったけど」


「俺も……そういえば気にならなかったなぁ……」


聖人はそう言いながら、ワクチンを打たれた左腕の袖を捲り上げた。



「あれ?」


ワクチンを打った辺りが内出血のように青紫に変色している。


そのまま肩のほうに伸びているようなので、聖人は寒いけど我慢して服を脱いでみた。



「あっ!」


梓が目を丸くする。



「え?」


青紫の跡は、腕から肩に伸び、腹部ではなく背中側に回っていた。


「何?」


自分は見えないから、聖人は不安になった。


「背中に跡がついてる……」


梓はツバを飲み込んだ。


「マジかよ?」


「うん。ずっとここまで」


梓は聖人の背中の痣が消えた場所を指先で押した。