絶滅危惧種『ヒト』

ずっと部屋にこもっていたから、全く気がつかなかったので、

今倒れている人たちが、いつ発病したのか分からないが、おそらく数時間前なのだろう。


おそらくは四日前。外来の上杉医師が亡くなり、食堂で直樹が看護師の吐しゃ物を浴びたあの日。


あの日にこの病院内に撒き散らされた細菌が、これほどの感染爆発を引き起こしたに違いない。


死なない細菌は、病院内に滞在し続け、次から次へと病院を訪れる者たちに取り付き、そして外の世界にまで移動して行ったに違いないのだ。


それならば……


あの日、あの看護師の吐しゃ物を浴びた自分も、同じように発病して然るべきなのだ。


なのに自分は、まだ発病していない。

やはり……

生ワクチンが効いたのだ。それしか考えられない。


直樹はそう確信した。


ならばまだ生きて動いているあの人たちを、助けてやることが出来る。


直樹は急いで感染症学科に戻ることにした。

早急に生ワクチンを作らなければならない。


先程までの、人類がどうなっても良いという感情は、いつのまにか消えていた。


医師としての責任感とか、そんなものではない。

直樹自身も意図しない、無意識の部分で直樹はコントロールされていたのである。


それは、自分の思いついた治療が正しいということを、実証させたいという、

研究者としての、ある種の自己満足を満たす為のものだった。