絶滅危惧種『ヒト』

すぐに井上がやって来た。


「参ったなぁ」


その表情は暗い。


「どんな状況なんだ」


「今のところ報告が入ってるのは7件だが、今日中にもう少し発病者が出るんじゃないかと思う」


「そうか……」


直樹の気分も沈んだ。


「しかし……あのとき外来の待合にいた患者は大勢いたかもしれないが、直接キャリアの吐しゃ物に触れたものは少ないはず……」


「それなんだが、本当に接触感染だけなのかな?」


「俺もそう思う。ただ……だったらキャリアと接触のある、聖人たちや、南極観測隊員が発病していないのが分からない」


「それなんだが……聖人がキャリアと接触した日は、まだ発病してなかったんじゃないかな?」


「なるほど……それなら分かる」


井上は頷いた。


「ところで感染症研究所はどうなんだ? もうワクチンは作ったのか?」


「いや、まだ生ワクチンしか作れていない」


「そうか」


「なんせ不活化しないんだからどうしようもない」


「全くだな……。冬眠はするが死滅しないなんて、だいたいウイルスは細菌と違っ……」


「ん? どうした」


唖然とした顔で固まった直樹を、井上が見つめる。


「本当にウイルスなのか?」


直樹が井上を見つめ返した。