銀狼は私に殴られた頭を摩りながら、悪びれずに言った。
「俺は、お前の匂いを確認しただけだろうがっ!!」
私は半ベソになりながら言い返す。
「匂いっ!?何の匂いっ!?この、ど変態っ!!」
銀狼は大きく息を吐き出し、切れ長の瞳をさらに細めた。
「お前の身体からは、やはり夏代子と同じ香りがする。
その香りは代々この辺りでは、山神への供物となる者の香りだ。」
「…供物って何?」
「…人柱だ。知らないか??」
「………。」
少しの沈黙が流れる。
人柱って……、あの昔話しとかに出てくる、あれ?
…嫌な予感がする。
「人柱って…、あの、生き埋めにされちゃったりとかする、あの人柱?」
神妙な面持ちで尋ねる私を見て、銀狼は、さも可笑しげに笑う。
「聞きたいか?」
「う…うん…」
本当は聞きたくなんかないんだけど…
なんだかこの話は聞いておいた方がいいような気がした‥。
銀狼は意地悪そうに笑いながら、金色の瞳を細める。
「人柱とは…まぁ、一口で言えば、神や妖者の餌だな!」
「餌っ!?」
私はその言葉にギョッとする。
「あぁ、そうだっ!喰われるのさ!」
銀狼は腕組をしながら、ニヤニヤと横目で私を見ている。
「く…喰われるって…なんで?」
恐る恐る聞き返す私に銀狼が続ける。
「ふふん…。元々人柱となる者は体内に不思議な力を宿しているんだ。
その力は神や妖の力を増幅させる…」
私は非現実的なその話についていくだけで精一杯だ。
「…お前からは、その人柱の匂いがする…」
冷や汗が流れる…。
「まあ、生き埋めにはならん。良かったな♡」
そう言って、銀狼は声をあげて笑った。
「…あの…。ちょいと、お兄さん、笑い事では……。」
全然笑えない話しに顔を引きつらせていると、
銀狼は清々しい程の綺麗な笑顔を私に向けた。
「…俺が目覚めたと言う事は、山神もそろそろ目覚める頃だろうなあ……」
「………」
「…山神の奴、前回供物を喰らい損ねているからなあ…。
さぞ腹を空かせてる事だろう」
「………」
銀狼の言葉に、私の顔はどんどん青ざめて行く。
「…お前が俺を目覚めさせたという事は、
お前自身も『人柱』として目覚めた、と言う事だ…」
「………お前、これから狙われるぞ♡」
銀狼の爽やかな笑顔に背筋が氷ついた。
冗談じゃない!私は意識して銀狼を目覚めさせたわけじゃない!
勝手に目覚めておいて、なんて言い草だ!
「あ…あたし…そんな訳わかんない奴に喰われちゃうのっ?
何で?意味わかんない!
っていうか、あんたが悪いんじゃん!?何であたしなのっ!?
ねぇ、銀狼、何とかならないの?」
完全に取り乱した私を見て、銀狼は何が楽しいのか、ニコニコと笑っている。
「何笑ってんのよっ!!」
「…なんとかならん事もないが……。」
「何っ!?何か方法があるのっ?」
藁にでもすがりつくような思いで、銀狼の袖を掴む。
「お前が、うん、と言うかのう…?」
「何っ!?何よ!?勿体つけづに早く言いなさいよっ!」
ハハハっと銀狼が笑った。
「お前、俺と夫婦になれ。」


