「…私は…幸せだったわ…。
おじいちゃんに出会い、
あなたのお母さんが生まれて、あなたが生まれて…
沢山の人に囲まれて、それは、本当に幸せな事だったの…」
「…ただ…私の幸せな人生に一つ心残りがあるとすれば…」
そう言いながら、夏代子の表情が心なしか曇りがかる…。
「…銀狼の事…?」
続きを語るのにためらう夏代子の代わりに、真央が答える。
「…えぇ…。そうね…」
苦笑いを浮かべる夏代子…。
「…真央…あなたには…嫌な役割を押し付けちゃう事になって…
本当にごめんなさいね…」
すまなさそうに、瞳を伏せて語る夏代子に、
真央は懸命に首を振り、それに答える。
「真央…、おばあちゃんの最後の望み…
あなたなら、解るはず…。
叶えて貰えるかしら…?」
すまなさそうに、はにかみながら、真央の頭を撫でる夏代子…。
夏代子の真央に向けられた眼差しを、真央はこぼれ落ちそうな涙を
必死に堪えて、黙って見返す…。
今…
あの時、山神に封じられた夏代子の銀狼への想いは、
永い血の眠りから覚め、日を浴びる時を迎えたのだ!
真央の身体に流れる血は、夏代子の強い願いの賜物…。
その願いの強さを、身体中で感じながら…
真央は、夏代子に頷いて見せる。
「…うん…。
…うんっ!!
おばあちゃんの願いは、必ずあたしが銀狼に伝えるよっ!!」
強い瞳で見返す真央を、優しい笑顔で包み込む夏代子…。
「…ありがとう…。真央…
…あなたの恋も叶うといいわね…」
「…!!!!」
このシリアスな雰囲気の中での、夏代子の突然の発言に
油断していた真央は、一瞬で耳まで顔を真っ赤にし、慌てふためいた。
「…なっ…何言っちゃってんの!?おばあちゃんっ!!」
急に目線をあちらこちらへと忙しく動かしだす挙動不審な真央の反応を
面白がるかのように、クスクスと笑いながら答える夏代子。
「あら…。隠さなくてもいいのよ!
…銀狼、良い男でしょ?」
ニッコリ笑って問いかける夏代子に、益々顔が紅く染まる。
真央は、恥ずかしいやら、照れくさいやらで、黙って頭を縦に振って見せるのが精一杯だった。
夏代子は、そんな真央を心底可愛いと思った。


