「…やっと…主様のおでましか…」
山神の姿を、その金色の瞳に映した銀狼は、さらに瞳をギラつかせ彼を睨みつける。
「…銀狼…。お前、何故ここへ来た?」
静かな口調で山神が銀狼に問う。
「…何故だと…?とぼけるなっ!
お前が夏代子を連れ去ったのだろう?
ここから夏代子の匂いがする…
さっさと夏代子を返せっ!!」
対峙する二人の神の瞳のなんと凄まじい事か…
その瞳の迫力とは対象的な、静かな口調が
二人の怒りの深さを誇張させる…。
「ふんっ…俺が連れ去っただと…?
お前は、夏代子の気持ちなど、
解っておらぬのだろうな…」
「なんだとっ!?」
せせら笑うように鼻を鳴らした山神に、銀狼の口調が荒くなる。
「…現に…
夏代子はお前の元には現れなかったのだろう…?」
「………っ!!」
山神の静かな質問に、銀狼は言葉を飲み込む。
夏代子と一体化しつつある山神は、夏代子の気持ちも、
二人の交わした約束も…
全て知っていた。
そして…
夏代子が命を掛けてまで守りたかった者達の事も…
全て…。
山神は冷たい瞳で眼下の銀狼を見下ろす。
「…夏代子は、自分からここへ来た…。
…人柱となるために、
自らの足でここへ来たのだ…」
「そんな筈はないっ!でまかせを言うなっ!!
さっさと夏代子に会わせろっ!!」
山神の挑発ともとれる口ぶりに、激高する銀狼。
山神はそれに、顔色一つ変えず無表情に返す。
「…もう、お前が夏代子と会う事は叶わん…」
「…何だとっ!?」
「…なぜなら…」
続きを語ろうとする山神の口角が、妖しく吊り上がり…
虫でも見るような目つきで、翠緑の瞳を細める…。
「…夏代子は、俺と一体化したからだ…。
もう、この世に夏代子はおらぬわ!」
「…!?まさか…お前夏代子を喰ったのかっ!?」
「………」
愕然と問いかける銀狼に、山神は答えない…
その代わりに…
山神は妖しい微笑を浮かべ、その答えの代わりとした…。
「…き…貴様ぁーーーっ!!」
銀狼の美しい銀髪が怒りで逆立つ!


