「………っ…」

声は出なかったけど、目は開いた。
慌てて引っ込められた、狭山久志の、手。



「……………」

「………」


変な沈黙。


車は、止まっていた。

時間は、私が目を閉じてから、30分。


どう、言ったら…いいんだろう。
何するんですか!と叫んでもいい?



車は、止まってる。

停まってるんだ、うちではなくて…狭山工販の、裏に。



どうしよう。
どうしよう哲。

この人……触った。

でもこの人、得意先の跡取り。

どこまで騒ぎ立てて大丈夫?

どうすれば、仕事に差し障りなく、帰れる?




「……帰り、ます」


もう、歩いて帰る。
ここからなら、一時間も歩けば、帰れる。多分。

騒ぎ立てずに。
責めずに。

私は、何も気付かなかった。
気付かなかったんだ。


仕事中、業務上の事で車に乗り、お昼過ぎたから、ごはんを食べた。

熱が上がって辛かったから。

目を閉じたら、眠ってしまった。


それだけ。

眠った私が、悪かった。