「……なにが?」



口の中の傷が痛まなくなって。
顔に浮いた、赤い斑点も消えた。

しつこくも、頬の痣は、消えきっていないけれど、腫れは、すっかり引いた、頃。


本当に海外逃亡していたのか、シンガポールのビスケットを、お土産だと持って来てくれた真ちゃんが。


私の顔をじっと。
戸惑ったように見つめて、眉を寄せた。



「ねぇ、なにが?」

何が哲じゃないの?



「………ほっぺた」

「………………ああ!」



なんだ、痣の事?

…って……何てこと言うのさ。

哲がそんな乱暴な事、するわけないじゃん……。




「…ゃ、だってあいつSだし」

「そっ……」

そんなこと、無…………



「限りなくMに近いSョ?」

「………あ~」



…そ………かも?
なんか、…色々我慢するし。




誰が限りなくMだ、ストイックと言え、と。

呆れたように言いながら、冷蔵庫を開けた哲は。


昼間から呑むつもりなのか、缶ビールを二本、テーブルに置いた。