あぁ…じわじわ怖かったぁ。
どうして隠れるんだろう。
普通に挨拶してれば、不気味じゃなかったのにね。
「社長?じぃさん?息子?」
「息子」
哲は、私のトランペットケースと、譜面台ケースを手に持って、先に店を出る。
馴染みの店員が、会話を聞いていたのか、心配そうに外を見ながら、私に、会計済みのローズヒップのジャムの瓶を、渡した。
「気をつけて帰ってね?」
蜜ちゃん、変なのに好かれやすいから…
なんて。
脅かさないでよ。
変なのって誰よ…。
…まさか哲!?
…確かに、変だけど…。
…だって。
……大学出てるんだってよ?
有名な。
単に、髪を赤くしていたいから、って理由で、この不景気にせっかく内定した就職、蹴ったんだってよ?
髪の黒くて短い自分が、ちょっと卑屈に見えたから…って。
……どんな我が儘だよっ。

