「ててて…哲!哲!」
「あれ、早かったな」
そりゃあ走って来たもの!!
飛び込むように店に入って、赤い髪を、ものすごい勢いで捜した。
呑気にメニューを眺めていた哲の隣に座って初めて、吹き出す冷や汗と、息苦しさに、気が付いた。
「………どうした?」
「さっ…狭山工販さんが!!」
ついてきた!
「…は?」
狭山工販て、狭山工販?
なんて、当たり前の事を口にした哲の、眉のピアスが上がる。
「なんで」
「知らないよぅ!」
知らないから、怖かった!
打ち上げ終わった後から、ずっと!
哲は。
小さく首を傾げると、立ち上がって、店の外を窓越しに見回した。
服装は、演奏会のまま。
全身黒で、細身。
真っ赤な髪が、少し長くて。
やっぱりちょっと、ビジュアルバンドか、ホストか、って言う感じに派手で。
居ないみたいだよ、と振り返った、その唇のピアスに。
私はようやく、息をついた。

