「…嬢ちゃん、無理に哲を許す事ぁ、ねぇんだぜ?」
工場への道を歩きながら、シゲちゃんは呟いた。
「え?」
いくら過去の話だ、って言ったって、嬢ちゃんに聞かせていい話じゃねぇんだ。
シゲちゃんは。
嬢ちゃんは、いつも感情を抑えつけて我慢するから、いつも自分が壊れちまうんだよ、なんて。
私を睨みながら。
元々は美形だった気がする顔を、憮然と、歪ませた。
「………でも、あんなの…怒りようがない、です」
私が怒ったら…。
哲、困っちゃうもん。
そんな、過去の話に……ただでさえ納得いかない話に…怒れない。
怒れないし、哲のせいじゃない、し……。
「それに……」
ここんとこ私。
哲に頼りきりで。
哲が、困った時にくらい私…。
せめて、ひとりで立ってられるから、私のことは気にしないで、って。
思った、から。

