「哲くんは?」
「最寄りで待ち合わせ」
ぐすぐすと涙を拭き終わり、サヨちゃんと同じ楽器の遼が、私のあまりの泣きように苦笑しながら、そう訊いた。
「何人か、一緒だから」
地下鉄。
だから、自宅の最寄りまで、迎えに来てくれるって。
整わない呼吸で、そう答える。
ふと。
視界の隅に、見たことのあるような顔がいた気が、した。
「どうしたの?」
「…今…、狭山工販さんが」
「え?」
「……うちの得意先の長男さん…に、見えたけど、違うかも」
こんなとこに居るわけナイ、ってほどの場所じゃないし、居ても不思議じゃないんだけど…
なんとなく。
なんとなく…、なんだけど。
ずっと見ていて、隠れた…みたいに、見えた。
「見間違いかも」
私、酔ってるし。多分。

