「社長、どこ行ったのかなあ」
まさか、狭山に乗り込んだり…してないよね…?
「ああ、蜜が起きてくるちょっと前に電話来た」
いきなり丸くは収まらないかも知れないけど、布石してきたから安心しなさい、って。
そのままダンス行くってさ。
「そっか、良かった」
社長、ダンス、好きだもんね。
割烹料理屋の彼氏が、他のひとと踊るの、ほんとは嫌なんだもんね。
私のせいで、楽しみ潰れなくて良かった。
私は、さして怖いとも感じずに。
郵便受けに入っていたオレンジピールを、わざわざ工場に戻って、捨てた。
「…何、してるの…?」
「対策」
哲は、一旦戻った工場からガムテープとマジックを持ち出して。
いきなり私の郵便受けを、ガムテープで封鎖した。
続けて自分の郵便受けに、無造作に貼り付けたガムテープには。
あまりキレイじゃない癖字で、“倉橋”と、書いてあって。
「…わ…私だけガムテープ!?」
やだよ!
もっと綺麗に作ってよ!!
せめて哲のもガムテープにしようよ!なんて。
ほんとは、なんだかもの凄く照れ臭い。
ドキドキして嬉しくて。
顔に出さないよう我慢しようとして、…多分…失敗した。

