結局スタジオのあるビルの入り口まで送られた私は、丁度鉢合わせた遼の、逸らしがちな視線と挨拶に気まずい思いをしつつ、哲に手を振った。
…………いつまでも気まずいものだね、こういうの…。
「はぁ…緊張した」
角曲がったら、赤い髪が見えたもんだから、びっくりしたよ、と。
エレベーターの中で遼は。
バストロンボーンの大きなケースを持ち直して、おどけたように、笑う。
「なんか…ごめん」
私も緊張した、と。
自然と、苦笑がもれた。
互いに、ちょっと視線が合わなくて。
それでも、なんだかコミカルな、気分。
決して、嫌な気まずさじゃない。
癒えてきた傷痕の痒みのような、変な、気分。
「哲くん、怒らないかなぁ」
目の前で一緒にエレベーター乗っちゃったけど、なんて。
「大丈夫だよ、そんなので哲、怒ら………」
…ない、はず。
………うん。

