Sympathy For The Angel

夕刻医大に行くと、美優紀とハヤトが病室からちょうど出るところだった。

「大丈夫?」

それしか声をかけられない自分に腹が立つ。

「椿さん、私……。椿さんのお家に帰っても良いんでしょうか?ご迷惑になったんじゃ……」


泣き出しそうな顔で私を見詰める美優紀が不憫に思えて、私が妥協しなければならないことを悟った。


……あの、冷たい両親に。




「大丈夫。父親も母親も、美優紀が来てくれると嬉しいと思うよ」


……だが、それは親愛の感情とは全く違うものから為される偽善からだろう。




私の母や父が美優紀を手元に置くことは、彼らの虚栄心の道具でしかないからだ。


美優紀を心配させないために繕う事にも罪悪感と嫌悪感が綯い混ざる。


人は何故、嘘をつかなければならないのか。




「椿さん、ご迷惑じゃないですか……?と言うか……椿さんのお父さんが、今日俺らんとこ来て『手術費用は工面してやる』って言ってくれたんですよ。断ったけど……」


ハヤトが困惑している。


「手術費用は、樹に甘えよう?父に頼むと、アンタ達が将来困った事になる。ほら、タダより高いものはないって言うでしょ?」



さすが父親。もうハヤトにまで手を回していたなんて。



「今後、私の父親がハヤトや美優紀に援助を申し出ても断って?アンタ達の未来が潰されちまう」

「椿さんがそう言うなら、俺らはそれに従います」


そう言うハヤトの揺るぎない意志に、救われた。