「樹に昨日の事、聞いた。大変だったな、椿」
ゆっくり顔を上げると、心配気に私を見るヒロの視線とぶつかった。
「あんま、沈んでんじゃねーよ。お前が沈むと困る奴等だっているんだから」
ん、と曖昧に笑ってその場は誤魔化した。
「でもさ、狂炎の構成員ってどのくらいよ?うち…紅蓮よりまだ規模は小さいんでしょ?」
「彼我の勢力にはまだ差がある。けど、ここら辺に存在するチームの中では『炎龍』に次いで三番目にデカいチームになった。昨日の夜にな」
訪れる沈黙は何を意味するのか。
「……樹は最初にどこから手を付けるつもりなのかな?」
窓の外に流れ行く人々をただ眺めながら私は聞いた。
「樹は……『炎龍』からだっつってるけど。俺としては早いとこ狂炎をつぶしたいんだけどなぁ。うちの内部事情ってのもあるし」
「造反しそうな『支店』がいるんだっけか?」
「……まぁな。そいつらがもし他の2チームの何れかと手を組んだらマジで洒落になんねー。けど今、紅蓮は例のクラブのせいで兵隊の3分の1が出せない状態だしよ」
「クラブは来月に閉店するんだっけ?」
「一応締め日の10日頃って言ってる。早く樹に戻って来て貰わねーと、俺が持たねぇよ」
エリカとヒロの会話を右から左に聞き流し、私は胸に蟠る不安を払拭出来ずに戸惑っていた。

